収入の壁!どう働く?
2025/06/15 家計
今年に入り「年収の壁・社会保険の壁」というワードが飛び交いました。このボーダーラインを越えないように、勤務時間等を調整して働いている方も多いのではないでしょうか。
令和7年度の税制改正では、個人の基礎控除額(※1)を48万円⇒58万円に、最低給与所得控除額を55万円⇒65万円に増額することとなりました。この改正は2025年以降の所得税について適用されます。
また、社会保険加入(※2)に関しては年収106万円・130万円が壁と言われていますが、先日の年金制度改革参議院本会議にて、年収要件の撤廃が決まりました。今後も順次撤廃や部分的解消が行われることが決まっています。
混同しやすい年収の壁。まずは現行での違いを理解することから始めましょう。
(※1) 所得金額2,350万円以下である個人。超える場合は別途規定あり。
(※2) ここでいう社会保険とは、健康保険・厚生年金保険のこと。
目次
1.年収の壁とは
いわゆる年収の壁には大きく2種類あります。「税金の壁」と「社会保険の壁」です。
混同しやすいので、まずはこの違いを知っておきましょう。ここでは配偶者の扶養に入っている給与所得者(短時間勤務者・パート・アルバイト等)のケースで説明します。
「税金の壁」 (判定基準:1月~12月の年収) 2025年以降
→年収110万円(超えると自分で住民税を納める)
→年収123万円(超えると所得に応じて所得税を納める)
→年収160万円(超えると配偶者の税金を計算する際の「配偶者特別控除」が減り始める)
→年収201万円(超えると配偶者の「配偶者特別控除」が無くなる)
「社会保険の壁」(判定基準:将来に向かっての給与月額、勤務時間等)
→年収106万円超(以下の要件に該当すると社会保険への加入義務が生じる)
※賃金要件は法律の公布から3年以内に撤廃(R7.6月決定)
・勤務先の従業員数が51名以上(2027年10月から段階的に緩和、10年後に完全撤廃予定)
・勤務先の週の所定労働時間が20時間以上
・月収が88,000円を超える(目安:年間約106万円)
・2ヶ月を超える勤務の見込みがある
・学生ではない
注)年収には交通費、残業代、ボーナス、家族手当などは含まない
→年収130万円超(以下の要件に該当すると配偶者の社会保険の扶養から外れる)
・月収が108,333円を超える(目安:年間約130万円)
・勤務時間が正社員の4分の3以上、週30時間以上(会社の社会保険に加入)
・週30時間未満の場合、国民健康保険と国民年金(20~60才)に加入する
注)年収には交通費、残業代、ボーナス、家族手当、不動産収入・事業収入等も含む
注)基準月額を3か月連続で超えると、扶養を外れ社会保険加入を求められる場合有
2.社会保険に加入すると何が変わる?
自分自身が社会保険に加入すると、扶養されていた時と何がどう変わるのでしょうか。
社会保険のしくみや特徴をまとめてみました。
「老齢年金、障害年金、遺族年金が増える(厚生年金)」
1階部分といわれる国民年金(加入・支払義務:20~60才)に加入すると、老齢基礎年金・障害基礎年金・遺族基礎年金が保障されます。会社員である配偶者に扶養されている場合、配偶者が社会保険料を払うことにより、被扶養者(第3号被保険者)もこの1階部分に加入したとみなされ基礎年金は保障されます。
自分自身が厚生年金に加入すると、当然この1階部分も自分で加入することになりますが、厚生年金部分が上乗せされ(2階部分)その分給付額が増えることになります。障害年金については給付額が増えるだけでなく、給付条件の範囲が広がり、軽度な障害でも保障される場合があります。
「傷病手当金、出産手当金がある(健康保険)」
傷病手当金とは、病気などのため連続して4日以上会社を休んだ場合、4日目から最大1年6カ月間、給与の3分の2相当額が支給されるというもので、給与支給が無い場合、とても有難い制度です。例えば、感染病等に罹患して4日以上自宅待機をせざるを得ないような場合にも、この制度を利用することが可能です。
出産手当金は、被保険者自身が出産のために会社を休み報酬を受けられない時に、産前42日・産後56日までの間、給与の3分の2が支給されます。
※雇用保険の被保険者で一定の要件を満たした場合、出生時育児休業給付金、育児休業給付金(育休手当)、出生後休業支援給付金、育児時短就業給付金(2025.4~創設)があります。
3.年収の壁に対して、働き方に迷った時は
税金の壁・社会保険の壁を超えると、確かに税金や社会保険料の支払いが発生します。それだけを見ると損のように感じてしまうかも知れませんが、もらう年金が増えたり、国民健康保険にはない手当てなど、社会保障が手厚くなるのは大きなメリットです。
日々物の値段が上がっている中で、さらに支払いが増えるのは大変なことです。しかしながら将来を見据え、可能ならば、壁を高く飛び越えてしっかり収入を増やす、という選択も有りではないでしょうか。三大支出といわれる「教育費」「家」「老後」に備えて、計画的に預貯金を増やしていきましょう。どれくらい働けば家計がうまく回るのか、一度計ってみることをお勧めします。家計シミュレーションは具体的な目安を見るのに最適なツールです。
そして、年収の壁を超えるかどうかという岐路に立った時、自分自身や家族の未来を考える良い機会になるのではないでしょうか。それぞれに事情があり、どう働くかは自分の都合だけで決めることが出来ないかも知れません。それでも、自分はこれからどう生きて行きたいか、何を優先したいのか、自分の想いを大切な人に伝える機会にしていただきたいと思います。
ファイナンシャルプランナー 堤 淳子