大事に育てた運用資産の、老後の取り崩しについて考えてみよう
2025/05/29 資産運用
人生においては、コツコツと資産を形成していく「資産形成期」と、その資産を活用するために取り崩していく「資産活用期」があります。老後のために若いうちから準備した成果を、なるべく目減りしない形で取り崩していきたい。賢い生活者はそう考えていると思います。今回は、そういった資産活用の時期に有効な、「取り崩し」について考えてみましょう。
目次
資産形成と資産活用
お金を貯める目的には老後資金だけではなく、住宅購入資金や教育資金などもありますが、ここでは老後資金として貯めた資産を、高齢期にどのような方法で取り崩していくかについてお話ししたいと思います。流動性の高い預貯金等はいつでも使える資産ですので、ここでは投資信託など値動きのある金融商品の取り崩しについてお話しします。
資産形成や資産活用は、その金額の多い少ないに関わらず、どなたも考えておくべきことです。行き当たりばったりで生活していると、年を重ねるごとに不安が大きくなっていくものです。なるべく早いうちにライフプランを立ててキャッシュフロー表を作成し、いくらなら運用に回せるかを試算してみて、できるだけ若いうちから収入の一定金額を将来の自分のために回すという考え方は、いつも私がお勧めしていることです。今の生活も楽しみながら無理のない範囲で、まずはiDeCoやNISAなどの非課税で運用できる制度を活用しましょうとお話ししています。
このように資産形成を始める場合にも、どこで、何を、どんな心構えで、など、注意する点は山ほどありますが、取り崩しの時期にもさまざまな注意点があります。
取り崩しには「一括」と「少しずつ」がある
取り崩しには、「一括」と「少しずつ」という選択肢があります。一括で取り崩すのは、自分が決めた時期に自分が決めた金額を自由に売却すればいいのですが、少しずつ取り崩すのは、考えてみると結構面倒です。高齢になって自分でできるでしょうか。皆さんも不安に思ったことはありませんか?おひとりさま、おふたりさまの人はどうしたらいいのでしょうか。資産形成の時には自動積立という制度があったのに、取り崩しの時にはないのでしょうか?
実は金融機関によっては、前もって指定しておくと「少しずつ」定期的に取り崩してくれるサービスが進んでいます。あらかじめ登録している銀行の「振込指定口座」に自動的に振込をしてくれるところもあります。自分が運用している口座がある金融機関ではどうなのか、ぜひ確認してみると良いと思います。
「一括」で取り崩す
一括で取り崩すメリットは、定年後のある時期、例えば65歳や70歳など、自分がしっかりしているうちに使い方を決められることです。運用を続けていると常に値動きが激しいので、大事な老後資金が相場によっては下がってしまうこともあります。そのような不安を感じる人は、一括で取り崩したいとい思うでしょう。ただその時点で現金化してしまい、普通預金や定期預金など利率の低い金融商品に変えてしまうので、その後は運用できず、想定以上に早く資金が枯渇してしまう可能性があります。退職一時金もそうですね。一時金でもらったけれど、運用に回すのは怖いので銀行預金に置いているうちに、予想より早く減ってしまい、心配になってFP相談に駆け込んでくる人もいます。自分が平均余命まで生きるのか、はたまたそれ以上長生きするのかは誰にも分かりません。ライフプランを作成し、一括で取り崩しても95歳や100歳まで持つだろうかということを試算してみるといいのではないでしょうか。もちろん、海外旅行の費用とか、施設入居の費用とか、目的のある一括取り崩しは最初からプランに入れておきましょう。
「少しずつ」取り崩す
ここからは、運用を続けながら少しずつ取り崩す考え方です。残った資産は今まで通り運用を続けられますので、使いながら殖やすことができます。少しずつ取り崩すには、以下に述べるようないくつかの方法があります。ただ、自動取り崩しを行っている金融機関でも採用していない方法もありますので、確認が必要です。またこのサービスは銘柄ごとの指定が必要です。取り崩しの年齢が近づいてきたら、事前に運用している銘柄数を絞り込んで、減らしておく方が良いのではないかと思います。
①定額取り崩し
これは、あらかじめ決めた金額ずつ売却する方法です。自分で受取金額を決められますが、運用により残高は上下しますので、取り崩しできる期間は不明確です。特に相場が下がっている時期には資産に対して多く取り崩してしまうため、想定以上に期間が短くなる可能性もあります。年金以外に毎月いくらというように、決まった金額を受け取りたい人におすすめの取り崩し方法です。
②定率取り崩し
これは、保有残高の一定割合ずつ売却する方法です。毎年、保有残高の4%ずつ取り崩すというように決めて取り崩します。相場により残高が上下していますので受取額の予測は難しいです。割合ですので、相場が下がっている時期には少なめ、上がっている時期には多めというように自動的に調整されます。取り崩しが進むごとに売却量が減るので、資産寿命を伸ばすことができます。資産を長持ちさせたい人におすすめの取り崩し方法です。
③定口取り崩し
こちらは、指定した投資信託の保有口数を、一定の口数ずつ売却する方法です。取り崩し期間を先に決め、その期間で割った口数を売却するため期間は明確です。運用により基準価額が変動するため、毎回の受取額は変動します。あらかじめ決めた期間中にずっと受け取りたい人におすすめの方法です。
以上3つの方法は、似ているようで内容は全然違います。
少しずつ取り崩したいなら、自分にはどれが適しているのかよく考えて選びましょう。
まとめ
老後のための資産を、いつからどのように取り崩せばいいのでしょうか。今回はそういった資産活用の時期に有効な、「取り崩し」について考えてみました。「少しずつ」定期的に取り崩すサービスを取り入れる金融機関も増えてきています。とても良い傾向だと思います。
人間が幸せを感じるのは、心の健康、体の健康、お金の健康がそろっているときだと言われています。せっかく自分たちが使うために貯めたお金です。できれば健康で、自由に動き回れるうちに有効に使いたいものです。旅行や趣味のための出費など、思い出に残るものに使いましょう。余裕があるならば、社会貢献や寄付などもいいですね。
ファイナンシャルプランナー 平野 佳代子