「NISA貧乏」について考える
2026/05/06 資産運用
2026年3月10日衆議院財務金融委員会の中で国民民主党の議員が「若者の間で最近『NISA貧乏』という言葉がはやっているが、財務大臣はご存じか?」という質問をしていました。そもそもNISAのことが取り上げられていること自体が驚きであり、また興味があったので取り上げてみました。
目次
1.「NISA貧乏」とは
日経ビジネスにも最近似たような『「NISA貧乏」生む資産運用立国の死角、投資ありきの金融制度、若者を翻弄』という記事が掲載されていました。
内容は、以下のようなものです。
Aさんの年収は約800万円で、20代の平均年収を大きく上回る。収入から所得税、住民税、社会保険料等を差し引いた可処分所得から最低の消費だけをして残りの大半を2024年に始まったNISAに回している。投資情報はSNSを通して頭に入れているが真偽不明のあおり文句があふれ強迫観念を生み出す。友人からの飲み会の誘いも「1回行けば5,000円、投資信託に回せば複利でいくらにでも大きくなる」と断る日々。インターネット証券のアプリを開き増えていく評価額を見つめるのが唯一の楽しみだ。一方で、Aさんには懸念もある。「旅行も趣味も我慢して、これで20代を終えていいのか」という思いが頭をよぎることもあるからだ。
20代であれば、旅行、ドライブはたまた同期との飲み会で大半を費やすと思いきやこういう若者が増えているそうです。
2.何が問題なのか
政府による「資産運用立国」の号令のもと2024年から新たなNISA制度が始まり、金融庁の「NISA口座の利用状況調査2025年12月末」によれば、2025年12月末時点で約2826万口座が開設され、累計買い付け額は2年で倍増して約71兆円になったそうです。制度開始前の政府目標をはるかに超えた金額で数字の上では文句の言いようがないようです。
前述の財務大臣への国民民主党の質問は、「NISA貧乏という言葉をお聞きになったことがあるでしょうか?」というのを皮切りに「20代は投資額をすごく増やしているのですけど、消費は伸び悩んでいるそうです。漠然とした将来不安を抱えて20代、30代は75%が『公的年金に期待していない』と回答している。かつては老後に1,000万円必要と言われたが、今は2,000万円、3,000万円必要と言われ、将来のライフデザインを描く前にとにかく不安にかられて『とりあえずNISAだ』、『とりあえずインデックスだ』ということが増えているそうです。そして積立自体が目的になっている。20代は投資も必要ですが、自分への投資や様々な活動、いろんなことをする大事な時期でありますがいかがお考えか。」という趣旨です。
問題点がこの会話の中に凝縮されていると思います。以下列挙したいと思います。
(1)横並び行動バイアス
「とりあえずNISA、とりあえずインデックス」という言葉が代表するように周囲の多くの人が取っている行動に追従しやすい行動のことを指します。第一生命研究所ライフデザイン研究部の鄭主任研究員によれば「自分がなぜ投資し、その金融商品を買うのか、腑に落ちないまま周りに合わせている若者が多いのではないか。」と分析しています。これは仕方ない面もあると思います。60代より上の世代は証券会社を始め金融機関は対面型が殆どでした。今はネット証券が主流で対面型のように商品のイロハから住宅ローンや資産形成について直接指導を受けたり金融商品に関して会話することはありません。指示に従ってクリックするだけです。かといってFPに相談する人もあまりいないように思います。従って「みんなが買うからとりあえず自分も買う。」といった行動をとりやすいと思います。
(2)ライフデザイン、ライフプランの欠如
「ライフデザインとは、経済的な資金計画だけではなく仕事や学業、家庭、余暇等生活にかかわる様々な面を含む総合的な人生設計」と第一生命研究所では定義しています。ライフデザインを思い描き、大まかなライフプランを意識したうえで投資を考えないと、具体的な金額も見当つかないと思います。上記の例のように投資が目的となっており、どのようなライフプランを達成したいから投資をするという視点が欠けていると思います。
私自身を振り返ってみても、20代からそのような視点でとらえていたかと言うとはなはだ怪しいです。自分で考えるのも限界があると思いますので、FPに相談し外部の知見を取り入れることも重要なことだと思います。
(3)様々な制度の理解不足
公的年金の仕組み、自社の退職金制度や確定拠出年金制度、さらには所得税や住民税の仕組みについても投資をする若い人がどこまで理解しているかという事も挙げられます。人々が不安にかきたてられるのはこれらの仕組みや制度を正確に理解していないことがあると思います。しかも、制度自体も定期的に見直しが行われたりするのでなかなかアップデートできません。
公的年金については「高齢化が著しい日本は年金制度が破綻する」、「若い人は年金をもらえないと」とか「国民年金未納者が年金財政を圧迫している」といった議論は近頃あまり聞かなくなりましたが、国民全体の理解はまだまだだと思います。厚生労働省もホームページで「年金・日本年金機構」という箇所で丁寧に説明をしています。ぜひ自分で制度を理解してほしいと考えます。
自社の給与制度、企業年金制度の有無または退職金制度の説明は入社時に受けますが、殆ど頭に残っていないと思います。さらに、給与明細も電子化されている時代なので、大半は銀行口座の金額残高だけ確認してその明細をプリントアウトして何が控除されているのか確認する人がどの程度いるでしょうか?そのあたりの関心も低いのではないでしょうか?
国も金融リテラシー向上(公的年金を含む社会保障制度、民間保険、税の仕組など理解)のために「金融経済教育推進機構」(J-FLEC)を立ち上げて、①無料の金融リテラシー向上動画講座、②J-FLEC認定講師の派遣による出張事業、③J-FLEC認定相談員による「初めてのマネープラン(無料相談や割引クーポン利用)」など様々な手段を講じています。特に③はライフプラン、ライフデザインを認識して投資を考えるきっかけになることが期待されています。CMを流したりして広く普及に努めている最中です。クーポン利用の際に登録が面倒など気軽に利用しにくい面もありますが、国が肝いりで用意した制度なので積極的に活用することをお勧めします。
3.最後に
国が制度設計している社会保障制度、企業、個人年金制度、税制の理解があって初めて自分の給与明細の中身が理解でき、さらにはどれくらい負担しているのか、さらには将来どれくらい受け取れるのかも調べることができます。そのような制度の仕組みを理解したうえで、改めて投資を考え直してみましょう。若い人まだ時間が十分にあり、慌てて投資をしなくても間に合います。そして若いからこそできる自己投資があります。不安に駆られて「NISA貧乏」という状況に陥らないように、じっくり考えて行動することをお勧めします。
ファイナンシャルプランナー 米村 健史
参考文献および引用文献
①日経ビジネス
「NISA貧乏を生む資産運用立国の死角、投資ありきの制度、若者を翻弄」
②SMBCコンシューマファイナンス株式会社
「20代の金銭感覚についての意識調査2026」
③金融庁
「NISA口座利用状況調査2025.12月末」



